2011年11月20日日曜日

Johanna Billing

スウェーデンの映像作家ヨハンナ・ビリングが、サイケデリック・ロックの嚆矢といわれるThe 13th Floor Elevators のフロントマンだったロッキー・エリクソン(Roky Erickson)の知られざる名曲"You don't love me yet"を多くのミュージシャンを集めてカバーしている曲がある。10年近く前の曲なんだけど、今年出たCMTのMIXCD『ZONAZONA』の終盤に使われていて、自分の中で何かがバチっと弾けた。彼女の公式サイトからダウンロードもできるので絶対に聴き倒すべきだ。
Listen / Download Johanna Billing"You don't love me yet"

とにかくもう、こういうのが本当の音楽であり、歌なんだと心の底から思う。7分40秒の音楽の旅。メロディはシンプルで深く、上へ上へと駆け上がりながら重なり合っていく歌声にはまるで現代版"ウィー・アー・ザ・ワールド"のような多幸感がある(実際、今回のプロジェクトを進めていくあたって、ビリングの頭の中には80年代の「バンド・エイド」のイメージがあったようなのだが、その目的は"世界を1つに"なんていう明確なメッセージを伝えることではなかったと彼女自身は語っている)。もちろん原曲もサイコアコースティックな佳曲だと思うんだけど、このビリングの曲はそういうオリジナルの次元を遥かに超えた感動を与えてくれる。



70年代のフォーク/シンガーソングライターのムーヴメント以降、日本人は「ミュージシャン=自分で作詞・作曲する人」のような固定観念に毒され過ぎている気がする(だから有名人が小銭稼ぎに音楽をやる時、未だに中途半端に作詞とかするんだよね...あれ最悪)。そもそもシンガー=ソングライターという言葉には「歌を歌う人は何らかの主義主張を持っていなけれればならない」というアンチ産業システム/アンチ商業主義的な要素が強かったわけだけども、たとえ「歌を歌う人」と「歌を作る人」が別であっても素晴らしい音楽には何の影響も与えない。「作者はだれか?」なんていうのは、ヒップホップ革命=サンプリング革命を通過した今どうだっていい事(著作権等の権利は別問題)だし、むしろ、模倣がオリジナルよりも優れてしまう事態も起こり得るという事は90年代以降の常識だろう。ビリングは、この曲をリリースした2003年から2010年にかけて、世界の22都市を回りながら各地ミュージシャンに"You don't love me yet"をカバーしてもらうツアーを行っていて、それらのツアーの様子がYoutubeに一部あがってる。同じ曲でありながらそれぞれの音楽にそれぞれの風景が浮かび上がってくる。
















素晴らしい曲を愛情と想像力を持ったミュージシャンが歌えば、オリジナルを超えるような奇跡が生まれる―ビリングの"You don't love me yet"の活動は、そんな、音楽の純化運動なんだろうと思った。

60年代~70年代のフォークシンガー・ムーヴメントの背景にはベトナム戦争が密接に関わっていた。311以降の日本でも斉藤和義や七尾旅人、ECDなど数多くのミュージシャンたちは原発問題などに対して「何か伝えなければ」「何か言わなければ」という空気を敏感に感じ取っている。ただ、政治的なメッセージや警鐘を発するような直接的ものではなくても、音楽が音楽でありさえするだけでも人の心を動かすことはできるんじゃないか、ということだ。たとえば、311以降の殺伐とした日本の慌ただしい年の瀬に、家路を急ぐサラリーマンや買い物帰りの女の子を温かく照らすイルミネーションと共に、どこからともなく"You don't love me yet"が鳴り響びいてきたとしたら、ちょっとだけあたたかい気持ちになって、もしかしたらちょっと泣きそうにもなったりするかもしれない。

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MOON by Andrew Weatherall
実は、今年良く聴いたMIXの中でCMT『ZONAZONA』の他にヨハンナ・ビリングを使ってたのがアンドリュー・ウェザオールだった。アーサー・ラッセルのカバーなんだけどこれも名曲すぎる。もちろん、番長自体のMIXの内容もチルアウトなレイヴで最高です。

▼そのアーサー・ラッセルのカバーを更にルーマニア人のボゲダン・アンゲルがエディットしてる曲。これも最高。
Johanna Billing vs Arthur Russell - This is how we walk on the moon (Bogdan edit) by Bogdan
▼ちなみに、ビリングが今後加わってみたい≒カバーしてみたいと答えているミュージシャンは以下の通り。ジュディ・シル(Judee Sill)、ビフ・ローズ(Biff Rose)、ローチェス(The Roches)、ムタンチス(Os Mutantes)、ギャラクシー500( Galaxie 500)、ヨ・ラ・テンゴ(Yo La Tengo)。わくわくしてくる。
Johanna Billing - I' m Lost Without Your Rhytm (Original Soundtrack) by Apparent Extent

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