2011年10月29日土曜日

Dave Soldier

演奏する象である。

Thai Elephant Orchestra


デイヴ・ソルジャーDave Soldier関連の音源を最近よく聴いている。

ソルジャーは、このThai Elephant Orchestraというプロジェクトで、象専用の巨大な楽器を作り、タイの国立ゾウ保護センターで飼育されている6体の象を訓練し演奏をさせている(象は動物の中でも高い記憶力と知能を持っていて人の言葉を聴き分けれられるとも言われ、群れの仲間が死んだ時には葬式のような行動を取ることもあるらしい)。宇宙と交信していたサン・ラーのフリージャズも真っ青な、象だからあたり前なんだけど、人間を超越したフィールド・レコーディングの名作(「PHILIPPINES/Femmes artistes du lac sebu」など)を聴いてるような感覚になってくる。

アラン・ローマックス、ハリー・スミス、ヒュー・トレイシー、フランソワ・ジューファ、レダ・バジャダーレス...伝説的な音楽記録家や研究者の目的の多くは、文化人類学的なオリエンタリズムや民俗学的探究、偏執狂趣味などにあると思う(文字通りフィールドレコーディングとはフィールドワークだ)が、純粋な作曲家である(そして神経科学者でもある)ソルジャーの場合は、西欧の音階を逸脱した音の不確実性を録ること、そして単に記録するのではなくて、その不確実性を力ずくで再現することにあるように思う。

ソルジャーが南米グアテマラの北部の村(San Mateo Ixtatan)を訪れて、そこに暮らす原住民の子供や成人や老人も、楽器の経験がある人にも、そして全く経験がなさそうな人にも、演奏を教えながらフィールド・レコーディングしている『Yol K'u Mayan Mountain Music』もそうだ。これも本当に素晴らしい。
▼Yol K'u Mayan Mountain Music(レコーディング風景の映像)


フランソワ・ジェーファのネパール・フィールド録音作品『Katmandou 1969』がレッド・ツェッペリンの"カシミール"に影響を与えたという話(ジミー・ペイジ「俺とロバート(プラント)は,あの時期このレコードばかり聞いていたんだ」)や、ハリー・スミスの北米民族音楽集『Anthology of American Folk Music』がボブ・ディランの『Good As I Been To You』に影響を与えたこと(民族音楽の宝庫を生んだこだわりの男たち)はあまりにも有名だが、今でも、先鋭的なミュージシャンの一部は「不確実性」に魅入られたフィールド・レコーディングに大きな影響を受けていると勝手に妄想してる。

たとえば、ソルトレイクシティの作家Garrick BiggsによるStag Hare

そして、ボルチモアの民族トランスTeeth Mountain

大地の息吹が、太陽への讃歌が、世界の民族の歌声が聴こえて来ないだろうか?

ソルジャーの近しい存在としては、オランダのSWPレーベルのマネージャー兼ミュージシャンであるマイケル・ベアードMICHAEL BAIRDがいる。ヒュー・トレイシーのレア音源をリリースしながら、自身もアフリカのフィールド・レコーディングをモダンなダンスミュージックに昇華させている。
Michael Baird - Heritage Groove (from The Ritmoloog)(MP3)

ちなみに、デイヴ・ソルジャーは上記2作品以外にもたくさんの試みをやっていて、ニューヨークのハーレムに住む5歳~10歳の子どもたちにヒップホップをやらせてる「Da HipHop Raskalz」というプロジェクトでは、リリックを書いてるのも、楽器を演奏してるのも、ドラムのプログラミングをしてるのも、ラップしてるのも、なんと、全部、子どもたちなのだ。
Da HipHop Raskalz, Kickin' It Grade School
一歩間違うと、ヤラされ感ありありの子役バブルガム・ポップスになってしまうはずなのだが、子ども特有の無邪気さを規律で抑え込んでいないエキセントリックなリズムが癖になる(〇モ死ね)。

ここにも、不確実性という魔法が鳴ってる。

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

高橋健太郎氏のアラン・ロマックス考
すごい面白いのでフィールド・レコーディングやワールドミュージック全般に興味のある方は必読。

shhhhhフィールドレコーディング脳内旅行(ecocolo 2010年11月号)
最新ミックスCD『Sol de Medianoche』でもニューカレドニアのメラネシア系先住民族のフィールド・レコーディング音源でラストを締めくくっていたDJ shhhhhさん。ソファーに座ってゆっくり音楽を聴いている時は決まって、この雑誌エココロの世界フィールド・レコーディング特集のページを繰っている自分。ひだまりで飛べる。

▼Stag Hareの3年ぶり最新アルバム「Spirit Canoes」

んんん~、天才。新緑のLSD。

▼Teeth MountainのLIVE音源
Teeth Mountain - Live @ Shea Stadium 12.18.09 by LiveatSheaStadium

0 件のコメント:

コメントを投稿